ログイン
会員登録がまだの方はこちら
社会的な課題として各所で働き方改革が進むが、深刻な過重労働が指摘される医療分野でもさまざまな改善策が講じられている。その施策の一つがRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用だ。
名古屋大学医学部附属病院(以下、名大病院)は事務部門におけるRPAの普及、開発要員の育成を目指してRPAプロジェクトを始動した。2018年度には9ロボットをトライアルで作成。2019年度には延べ21ロボットを作成し、事務業務に本格導入。院内全ての事務部門で導入した場合は合計約9,800時間の業務効率化を見込んでいる。
国立大学病院では他機関に先駆けてRPAを導入し、先行モデルケースとして注目を集める名大病院。RPA化を推進することで定型業務をロボットにタスク・シフティングし、事務スタッフは医師・看護師などの支援、病院の企画・戦略的な業務に注力する体制を目指す。業務改善から現場の働き方改革、そして医療の質の向上を目指す名大病院の取り組みを聞いた。
<目次>
医療現場の負担軽減を目指し、事務の定型業務からRPA化に着手
——本格的な導入が医療界を越えて注目を集めました。RPAの活用によってどのような課題の解決を狙ったのでしょうか。
永家 発端は、本院ならではの課題でした。それは「手術件数を増やすため、麻酔医を増員したい」というものです。しかし、麻酔医のみを増員することは、当院のみならず医療業界全体で減少している外科医にさらなる負担を強いることにつながってしまいます。折しも、2024年度からは医師に対しても時間外労働の上限規制が適用されます。世の中で進む働き方改革に逆行するわけにはいかないのです。そこで、まずは医師の深刻な過重労働について改善策を講じるべく、さまざまな角度から検討に入りました。
医師・看護師らの医療従事者は電子カルテ業務や各種の雑務などに忙殺されており、専門性を要する本来の医療業務に専念できていないのが現状です。そして、それは事務部門のスタッフも同様で、優秀な事務職員がデータ入力などの定型業務に時間を割かれています。そこで着目したのがRPAです。医療現場への導入は電子カルテシステムを巡るセキュリティの問題もあって容易ではありませんが、事務部門への導入は業務効率の改善に直結することが期待されました。
検討を始めたのは2018年ですが、当時の石黒直樹病院長はメディカルRPA協会の発起人でもあり、医療従事者の労働環境改善、働き方改革の推進に積極的でした。こうして病院執行部の承認が下り、2018年11月にRPAプロジェクトが発足。事務部門の各課から8名のメンバーを選出し、導入に向けた準備が始まったのです。
——事務部門にRPAを導入することで、医療現場の負担をどのように軽減していくのか、実現までのロードマップはどのように描かれましたか。
大石 永家部長の統括の下、私が現場のプロジェクトをリードしました。プロジェクトが目指したのは事務職員の定型業務をロボットにタスク・シフティングすること。つまり、事務部門の定型業務を自動化することです。これにより、事務職員が医師・看護師の支援や、より付加価値の高い業務にシフトできるようになるでしょう。結果として、医師の定型業務を事務スタッフにシフトできる。医療現場の効率化や医師・看護師の負担軽減につながります。
事務部門全体にRPAを導入し、12ロボットで年間約663時間の業務を削減
——2018年11月にRPAプロジェクトが始動し、2019年5月には院内の事務部門で本格導入を果たしています。どのようなプロセスで進められたのでしょうか。
大石 プロジェクトを本格始動する前に、事務部門では業務の洗い出しを行いました。総務課、人事労務課、経営企画課、経理課、医事課といった各部署でリストアップされたのは68の業務。この業務を全てRPA化できれば、予想される業務削減時間は約9,800時間に及びました。
プロジェクトメンバーはロボット作成の研修を経て、パイロット開発に着手。この段階では「会議開催案内メール自動送付ロボット」「医師勤務時間計算支援ロボット」「旅費精算関係書類データ抽出ロボット」など、合計9ロボットを職員が自ら作成。これらのロボットの稼働では合計415.7時間の業務削減が可能になりました。
荻野 私は初期メンバーとしてプロジェクト創設時から参画しました。集合研修、eラーニング研修を経て、2018年12月~2019年2月の3カ月でロボットを1体作成しました。最初のトライアルということで、効果が顕著に現れそうな業務に絞って開発。RPAはExcelと親和性が高いですから、その相性も重要視しました。私が籍を置く医事課だけではなく経理課でも活躍するロボットができ、大きな手応えを感じることができています。
大石 パイロット開発の代表例として、人事労務課の医師勤務時間計算支援ロボットを紹介します。当院において、医師の勤務時間は各研究室、医局から紙で報告されてきました。従来、それを手作業で集計して勤務時間を計算し、書類に取りまとめ、それをもとに給与計算をしていました。今回のロボット化に際して、医師の勤務時間をExcelファイルで収集することにして、それをロボットで自動計算。月あたり400枚を1枚2分ほどかけて計算していたところ、RPAによって年間で160時間以上の効率化ができています。これらの集計業務は月末など特定の時期に重なり、その結果として超過勤務につながる傾向もありました。ロボット化により、超過勤務時間の削減も視野に入ります。
——2019年上半期にはプロジェクトメンバーも増員され、全19名に。本格導入の成果、手応えはいかがでしたか。
大石 追加メンバーの選出からRPA対象業務の選定、RPAサーバーの導入などの準備を経て、2019年5月にはロボットの開発・運用が本格的にスタートできました。パイロット開発分と合算して21体のロボットを作成。これらをトータルすると、年間841.1時間の業務削減に相当します。現在は12ロボットが実際の業務で運用されており、年間663.4時間の業務削減に相当する成果を挙げています。
仲田 2019年2月に院内で報告会が催され、パイロット開発のロボットの成果が発表されました。Excelマクロに興味があったこともあり、2期メンバーに選出された後は前向きにロボット開発に取り組むことができました。
私が作成したのは「外部資金予算執行状況確認表作成送付ロボット」です。これは予算の執行状況を学内に通知する確認表をロボットが作成し、メールで自動配信するというもの。従来は確認表を紙で出力して配付していましたが、ロボットに親和性の高い作業はメール配信ということに思い至り、PDFのメール配信に切り替えています。RPAによる業務効率化に加え、結果としてペーパーレスも実現できました。
ログインしてコメントする